序論・コタツでアイスはテッパンだ。
なんの変哲もないローテーブルに布団をかけ、天板を乗せただけの簡易コタツの内部が露わになる。天板内側に、暖房用のヒーターなどは付属していない。
ただ、子供がイタズラで貼ったと思われても仕方のないような松明のステッカーが貼られていて、それがローテーブルをコタツにする仕掛けとなっていた。
「カントリーマアムのアイスくらいは買ってこいっつーの!!」
カネミツの叫びと同時、ローテーブルから巨大な火球が飛び出した。
──ここは、世界最大の領地を有するロシア。その広いタイガ地帯の地下にある、魔法学園都市・ワシリーサの学生寮だ。
有機物、無機物を問わず、全ての物質から放たれるエネルギー・魔力を使い、魔法を発動させる術を習得する学び舎。そこに通う学生の中でも、カネミツの扱う術式は火の精密なコントロールに優れている。
発射された火球を辛うじて避け、オキツグは転がるように部屋の出口──窓へと向かう。
「コタツを武器として使用するとは……恐ろしいやつだ」
「お前の罪悪感ゼロな神経の図太さの方が恐ろしいわ!」
会話の合間に放たれた追撃はしゃがんで避ける。
一撃目、二撃目と、犠牲になったのは寮備え付けの家具だが、気にしている場合ではない。コタツのために土足厳禁となったラグの上から飛び出してブーツに足を突っ込み、オキツグは部屋の隅に駐輪した黄緑色の自転車──ライジング・フリーに手をかけた。
カネミツの術式に火が多く使われるのに対し、オキツグはよく風の術式を使う。
ライジング・フリーのボディ部分には、風の象徴たる剣と翼が描かれていた。
「逃げる気か!」