序論・コタツでアイスはテッパンだ。
「ふん、オレの右目に秘められし大いなる力を見ていないからそんなことが言える。無知であることは幸福だな」
「そういう割にはその包帯しょっちゅう外してるよな!」
完全無欠に、単純明快に、ただの厨二病患者だった。
アイスを失い、さらに普段から厨二的発言に頭を抱えているカネミツは、ことオキツグを被告人にした場合、一番の被害者と言えた。
しかも、異国ロシアでの寮生活で同部屋、唯一の日本出身者同士ということで、見事に逃げ場がない。
救いといったら、二人の趣味が妙に合っているというところだろうか。
「しかし、クッキー&クリームとはいい選択をしたな」
「お前のための選択じゃねぇんだよチクショー!」
……救いにはならないのかもしれない。
「そもそもだな! このコタツだって俺のものであって!」
「一人でコタツは寂しいだろ?」
「ヤロウと二人でコタツも十分寂しいわ!」
諦めの表情を浮かべて脱力するカネミツに対し、いまだスプーンをくわえたまま離さないオキツグは腕を組んで胸を張っている。
それだけならまだしも、
「そんなヘコむなって。今度日本まで『ひとっ走り』行って来たらガリガリ君ソーダ買ってくるっつーの」
フォローにもならない言葉を投げられれば、カネミツがキレるのも仕方のないことだった。
イヤーマフを乗せた肩が揺れる。喉の奥から押し殺された乾いた笑みが漏れる。
「ハーゲンダッツの代わりって言うんだったら……」
言いながら、カネミツはコタツのふちを掴み──アイスの残骸には目も向けず──天板の裏側がオキツグへ向くように横倒しにした。