結論・コタツじゃなくてもアイスはうまい。
カネミツ・ユウキは〈ババ・ヤガーの小屋〉の廊下を疾走していた。
それこそ、他人には見えないが、この上なく恐ろしいなにかに追われているがごとく。
めったに見せない真剣な表情で。ギプスで固定した右腕にも構わず。
実際、彼は目に見えないものに追われていた。
容赦なく、冷徹に、慈悲の欠片も見せずに学生を殺す──レポートの提出締め切りに。
前方、教員によって設置されたポストが見えてくる。
締め切り時間の到来一分前。
すでに、厳格なタイム・キーパーはポストの前に陣取っていた。
腰までの白髪を三つ編みにした、ノースリーブワンピースの幼女。
学長ババ・ヤガーだ。
「遅いっ!!」
一喝。
されど、締め切りを前にしたカネミツには通用しなかった。
「誰のせいだよ!!」
叫び返しながら、左手で掴んでいた茶封筒(レポート入り)をババ・ヤガーに投げつける。
そこそこの勢いがあったはずだが、ババ・ヤガーは意にも介さず軽く受け取って、満足げに頷いた。
その手前で、カネミツは膝に左手をつく。無理に無理を重ねたせいで、体の節々が痛い。
「うむうむ。いい重さじゃ。今から読むのが楽しみで仕方ないぞ」
「のんきに、言ってる、場合、か」
「これっぽち走った程度でなーに息切れしとるんじゃ。若いのに情けないのー」
「こちとらテメーのしるべに炙られたばっかりなんだよ!」
ほとんど反射的にツッコミを入れたカネミツは、酸素不足で咳き込むはめになった。