本論三・バカと天才は紙一重だ。

 二機の同胞を壊した魔法使いは、すでに死んでしまっただろうか。介入者の体から感じ取れる視覚や嗅覚を使って判断しようにも、〈ワシリーサのしるべ〉は人を焼いたときの煙の色や匂いを知らない。

 仕方なく、〈ワシリーサのしるべ〉は適当に介入者の腕を振って煙を払う。

 煙の隙間から垣間見えたのは、炎に包まれる飛行用箒と──それだけだった。

 固まる〈ワシリーサのしるべ〉に、真横から銃口が向けられる。

「言っただろ」

 絞り出すような声がした。

 確認すると、先ほどまで敵対していた魔法使いが、黒煙をあげて焼け死んでいたと思われた魔法使いが左手でライフルを構えて立っていた。

 右腕は力なくぶら下がっていて、魔法使いの顔は笑みを浮かべているものの脂汗が浮かんでいる。

 落ちたのか──いや、飛び降りたのか。

「こいつは高いところから落ちた程度で動かなくなるような、優しい造りはしてねぇんだ」

 その言葉が、〈ワシリーサのしるべ〉が外界から受け取った最後の情報だった。