本論三・バカと天才は紙一重だ。
互い違いに並ぶ頭蓋骨たちの間を走るのは、路上に並んだコーンを左右に避けながら進むのとはわけが違う。
「──いいコースになってきたな、相棒!」
それでもブレーキに指すらかけず、オキツグはペダルをこぎ続ける。
黄緑色の右目が、一際強く輝いた。
風の流れを可視化。地下都市の「上空」で無数の黒炎に煽られた風の道は、無秩序に交わり合っている。
オキツグに従って背中を押し、道を空ける従順な風はいない。
場を支配しているのは、〈ワシリーサのしるべ〉から薄く広がるような魔力だった。
冷や汗が一筋。オキツグのこめかみから流れる途中で、はるか後方に弾き飛ばされる。
相手の領域に入ることを恐れている場合ではない。
もとより、地下都市ワシリーサ全てが相手の領域なのだから。
「ハンドリングだけは、魔法に頼るわけにはいかないな」
汗で滑るハンドルを掴み直し、オキツグは言う。
「オレの進む道はオレが決める」
断言。それに応えるかのように、ライジング・フリーはさらに加速する。
ほとんど突撃のような勢いで、オキツグは機雷原へとつっこんでいった。
回避行動を繰り返す軌道は、路面との摩擦を増加させる。ギャリギャリギャリ! とホイールの悲鳴が甲高く響く。
頭蓋骨たちの間にある隙間は、自転車一台がようやく通れる程度。加えて、道を塞ぐような、あるいは追いすがるような火柱があちこちから放たれる。
「────ッ」
いつしか、オキツグは半ばほど呼吸を止めていた。