本論三・バカと天才は紙一重だ。
離れすぎては〈ワシリーサのしるべ〉の本体から標的にされかねないし、近すぎても突進や火柱が襲いかかってくる。ひとまず安全圏に入ったところで、カネミツは一度顔の汗を拭った。
不得手な距離で、時間を使いすぎた。
ちらりと上方へ視線を向けてみれば、地下都市の内壁付近で〈ワシリーサのしるべ〉のミニチュアたちがわらわらと蠢いているのが見える。ドーム状の内壁を地上から〈ワシリーサのしるべ〉まで走ったとして、その半分をすぎたところだろうか。
おそらく、オキツグはすでにその場所まで辿りついているということだろう。
時間は限られている。
オキツグが〈ワシリーサのしるべ〉の本体に辿りつけば、介入者はカネミツの目の前で焼き殺されてしまうだろう。
「へっ……本番はここからってか……」
介入者へと視線を戻し、カネミツはライフルを肩から降ろす。
己の魔道を貫くための相棒を。
「コイツは動作不良なんざ起こすような、優しい造りはしてないぞ」
数秒後、火球と火柱は再び激突する。