本論三・バカと天才は紙一重だ。

 介入者を操る〈ワシリーサのしるべ〉が火球を嫌うならば、もう照準をずらす必要もない。

 カネミツは介入者を狙って火球を撃ち続ける。

 連続使用に耐えるように作っていない銃身が、細く薄い煙を出しているのが見えた。放出されきらない熱は、グリップを持つ右手にも伝わってくる。

 マズいな、と思いつつも、カネミツが介入者から目を反らすことはできない。

 火球が直線状の軌道しか描かないことに気づいたのか、介入者は右へ左へと体の位置を変えて照準を狂わそうとするようになった。

 少しでも隙を見せれば、先ほどのような突進で一気に距離を詰めてくるだろう。

 足が箒に当たって、カネミツは片手で柄を掴む。箒につけられていた象徴──介入者が漉いたらしい紙を手探りで剥がし、代わりに懐のステッカーを貼りつけたところで、拳銃が限界を迎えた。

 ガチリ、と引き金が後退しきった。にも関わらず、火球が銃口から飛び出していかない。

 まずいと思った次の瞬間には、介入者が深く屈みこんでいるのが見えた。

 地面に刺さった箒を抜きざま、カネミツも姿勢を低くする。役に立たなくなった拳銃を投げ捨て、芝生に手をつけて這うと、介入者が頭上を凄まじい勢いで通り過ぎていった。

 地面を削って減速する音を聞いて、カネミツは片手を地面につけたまま箒にまたがった。

 ステッカーの魔力を行使。デフォルメされたジェット機が、飛行のための魔法を発動する。

 介入者の二度目の突進は、急加速した飛行箒の尾をかすめていった。

 地面に激突しないように体を持ち上げながらも、介入者との距離に気を払う。