本論三・バカと天才は紙一重だ。
今まで追いかけまわしてきた〈ワシリーサのしるべ〉のミニチュアたちと比べれば機動力はないが、それでも人並みの移動手段しかないカネミツには厳しい相手だった。
箒という機動力を確保するために急ぎすぎたか、と思うもすでに遅い。
両者はすでに白兵戦の間合いに入っている。
「近接戦用装備……次のレポートのテーマにでもするか……」
ぼそりと言って、カネミツは拳銃を構え直す。
小さな拳銃にはそれほど多くの象徴を組み込めないため、火薬の補助があってようやくライフルの空撃ちと同程度の威力が出せる。残弾ゼロになった今、ハンドガンは目くらましか牽制程度にしか使えない。
それでもないよりマシか、とカネミツは介入者の頭に貼りついた頭蓋骨を照準。そこからさらに上に狙いをずらして撃つ。
姿勢を変えずとも当たらない弾道だったが、介入者は大げさに身をかがめて火球を嫌うような動きをした。カネミツの予測通りの動きだった。
魔導具商店街で、〈ワシリーサのしるべ〉の子機たちは魔導具への干渉を嫌っていた。
持ち主のいない象徴ですらそうなのだから、カネミツの魔法である火球も嫌ってしかるべきだ。介入者と共に切り離された、いわば「切られたトカゲのしっぽ」であるミニチュアならば、その反応はより強くなる。
間髪入れずに次弾、次々弾を撃ちこみ、介入者を足止め。カネミツはその間に、地面に刺さった箒に近づいていく。
でたらめに腕を振り回し火の粉を払う介入者は、かなり苛立っているようだった。
「もうちょい……おとなしくしてろよ」