本論三・バカと天才は紙一重だ。
魔法に取り込まれたとはいえ、〈ワシリーサのしるべ〉が貼りついている以外の部分は生身の人間のようで、制服が破れて露出した一部の肌を見ても、火傷や打撲らしい痕がうかがえる。
生き延びていられたのは、逆支配を実行した〈ワシリーサのしるべ〉が、自分を守るために炎を使って衝撃を和らげたからだろう。火炎を吐いて上昇気流を作ったか、あるいは爆風で体を浮かせたか。
どちらにしても、介入者自身にこれ以上のダメージを与えるわけにはいかなかった。
もう少しで箒に手が届く、というところで、介入者がぐっと姿勢を低くする。
瞬発力を重視した獣のような構えだ。カネミツは咄嗟に走る軌道をずらし、地面に刺さった箒から距離をとる。
同時、地面を蹴った介入者が、カネミツに向かって突進を仕掛けた。
〈ワシリーサのしるべ〉が吐き出す黒炎をまとった体当たり。舌打ちする間もなく、カネミツは走る勢いのまま転がって回避する。
すぐさま立ちあがって今度こそ箒を確保──しようとしたところで、介入者の腰に貼りついた頭蓋骨が、こちらを向いて口を開けているのに気がついた。
渦巻く黒炎は放射される寸前。回避は間に合わない。ライフルを持ち直す暇もない。
カネミツはなにも考えずに、ハンドガンの小さなトリガーガードを前後させて火薬入り薬莢を装填。口を開いた頭蓋骨をポイントして、すぐさま撃った。
黒い火柱と赤い火球が衝突する。
爆風に煽られ、カネミツと介入者は再び距離をとった。飛び散る火の粉を払い、カネミツはようやく舌打ち。額から落ちる汗を拭う。