本論三・バカと天才は紙一重だ。


     2

 カネミツ・ユウキは草原にできたクレーターに向かって走っていた。

 相棒である旧式ライフルは、いまだに肩にかけたままだ。

 銃身の長いライフルは、当然ながら近距離戦に向かない。相手の移動速度が分かるまで、その弱点をフォローできる拳銃タイプを利用した方が得策である──と、オキツグとの幾度にも渡るケンカで学んできたカネミツであった。

 距離が近づき、有効射程に入った瞬間、カネミツは脇に固定したホルスターからレバーアクションのハンドガンを抜く。

 ライフルと同様、装填なしでも撃てる構造。ただし、サブ・ウエポンのため弾数一。火力も弱くなる。

 けれども当然、拳銃でトドメをさすつもりはない。

 振り回しやすいハンドガンで牽制しながらクレーター近くの箒を確保し、機動力を得てライフルで狙撃、介入者から〈ワシリーサのしるべ〉を引きはがす。

 短い時間でカネミツがどうにかひねり出した作戦は、相手の脅威度さえ想定以内であればどうにか遂行可能なはずだった。

 クレーターの中心で仁王立ちする介入者に目を向ける。ただの人影だった姿は、詳細を観察できるまでに近づいていた。

 頭部と右肩、腰の左側に、〈ワシリーサのしるべ〉のミニチュアが生えるように貼りついている。頭蓋骨の眼窩と歯の隙間から、時折細く黒い炎がちらついていた。

 黒炎に炙られたローブはボロ切れのようになっているし、制服も燃えたり破れたりで原型をとどめていない。