本論二・若気の至りにも限度はある。
「ちょっと待て、じゃあ〈ワシリーサのしるべ〉が学長との縁を取り戻して、通常の防衛機構に戻ったら」
「介入者は殺されるだろうな」
あっさりと言ったオキツグに対し、カネミツは舌打ちしてライジング・フリーから降りる。
確かに介入者に同情の余地はない。そもそも、自分の魔道を貫く魔法使いは、その道から外れたものに対して大抵の場合は興味を抱かない。
魔法に支配されて死ぬなら勝手に死ね、というスタンスでも、許されてしまうのが魔法使いのコミュニティだ。
当然、カネミツもそういう風に生きている。──生きているつもりだった。
「しるべは任せた」
言いざま、カネミツはババ・ヤガーから受け取った指輪を外し、オキツグに放り投げる。
怪訝そうな顔をするオキツグだったが、慌てることなく受け取って一言。
「同情でもしたか?」
意外だ、だとか、幻滅した、などの感情すらこもっていない、確認のような問いだった。
あるいは、気の迷いだとか、ただの気まぐれだと思ったのかもしれない。事実、カネミツ自身も、これは気まぐれなのではないかと思ってしまうくらいだった。
魔法使いは基本的に、自分の魔道にのみ生きる生き物だ。
それ以外のものへ、好き好んで興味を向けたりはしない。
けれども、本当にそうだろうか。オキツグの問いを受けて、カネミツは黙考する。
確かに大抵の場合、魔法は魔法使いにとっての全てだ。生の全てを魔道にささげ、自らの追い求めるもののために命を使い尽くすことすらある。
ただ、それだけで魔法使いを「倫理的でない」とすることはできない。