本論二・若気の至りにも限度はある。

「魔法のための象徴を自分で選んだり作ったりしなくちゃならないのは、少しでも使いやすい魔力を安定して手に入れることができるからだ。そこらに落ちてるものの魔力を使っても魔法はできるかもしれないが、手間に対する見返りが少ない。自分のための魔力じゃないからだ」

 では他人の象徴ならば、とオキツグは一呼吸挟んだ。

「誰かが象徴として……自分の魔法のために必要な、自分のために必要な象徴として使っているものを、他の誰かが使おうとしたらどうなるか。手間に対する見返りが少ない、なんていう次元の話じゃない。我をなくすことになる」

「我?」

「単純な話だ。魔法使いと象徴が、言うなれば力を合わせて作り出すのが魔法。その魔法を、魔法使いが一人で奪おうとしたら。魔法使いと象徴から発される二つの魔力と、そこに含まれる感情や意思に打ち勝たなければならない」

 歯を打ち鳴らす〈ワシリーサのしるべ〉たちが、さらに騒々しくぶつかり合い始める。

 カネミツの視線の先、クレーターの中心地で、立ちあがる影があった。

「二つの自我と一つの自我なら、勝つのは当然二つの自我だ。残念だが、どれだけ我が強くとも、支配から逃れようとする魔法には勝てない。逆に魔法に支配されるのがオチだ」

 立ちあがった影は、人のような形をしていた。

 黒い炎をまとった、人のような形をしていた。

 驚く様子もなく、オキツグは坦々と。

「〈ワシリーサのしるべ〉は、その逆支配を子機の一部に任せて切り離したようだな。被害を最小限にした、というわけだ」