本論二・若気の至りにも限度はある。


     2

 ペダルを一踏み。

 たったそれだけで時速八〇キロに突入したライジング・フリーは、文字通りまばたきの間に街路を駆け抜けた。

「──っ」

 後輪車軸の上に立ち乗りしているカネミツは、オキツグの肩に手をかけてどうにか体勢を整える。叩きつけられる風や加速に伴う圧は消えているが、視覚から与えられる情報は足元を不安にさせる。

 道の両脇には魔法関連の商店が並んでいるものの、人通りは皆無だ。

〈ワシリーサのしるべ〉による避難警告はすでに終了している。薄暗い街で動いているのは、カネミツとオキツグの二人と、

「来るぞ」

 オキツグに言われ、カネミツは咄嗟に顔を上へ向けた。

 羽虫のように見えていた〈ワシリーサのしるべ〉のミニチュアたちは、すでにその形を判別できるまでに接近している。

 黒い火炎を内包した白い頭骨が五つ。

 巨大すぎる本体に比べれば確かに「ミニチュア」ではあるものの、その実成人男性の頭骨と同程度の大きさなのだから十分に脅威だ。

 ミニチュアの一つが口を開くと同時、前方を見ているはずのオキツグが体を傾ける。

 進行方向と速度は変えず、車体を移動。数瞬遅れて黒炎が放射される。

 三次元方向へ自律移動する火炎放射器。

 防衛機構としての〈ワシリーサのしるべ〉の本領は、ミニチュアの軍勢による「火炙り」にある。

「後ろは構うな。オレが振り切る」

「おう」

 オキツグの断言に対し、カネミツが応える。

「前は俺がこじ開ける」

 言いながら銃床を肩に押し当て、進路を塞ごうと降下してきたミニチュアを照準。