本論二・若気の至りにも限度はある。
「これだけ距離があると、まだ誤差が二、三は残っている。完璧じゃない」
長い前髪の奥で、オキツグの右目がライムグリーンの光を放つ。
オキツグ曰く「風を読む」魔法が組み込まれた、緑色のカラーコンタクトだ。
「……さいで」
ぶはぁ、とカネミツがついたため息は、一瞬だけ白い塊を作って霧散する。〈ワシリーサのしるべ〉が防衛機構として働いている現在、生活律動調整機構──つまり太陽が、ワシリーサには存在していない。
おのずと、気温は下降の一途を辿っている。
地下空間が保温に優れているとはいえ、雪で冷やされる都市の下部はさすがに寒い。
「多く見積もって一三〇か」
言って、カネミツは懐から小型の単発拳銃を取り出し、空に発砲した。
ぱすん、という気の抜けた銃声と、切れかけのライターのような炎がちらり。攻撃の用途ではなくカネミツの「場」を整えるためのもので、実際、続く言葉は白い塊を作らなかった。
「全部ぶっ壊すのはホネだな」
「カネミツが半分ぶっ壊して、オレがもう半分を追い抜いて置き去りにすれば問題ないな」
「壊せよ」
「あいにくだが、ライジング・フリーは破壊の道具じゃない」
「……さいで」
目を反らしながら適当に返してはいるものの、カネミツ自身もオキツグを戦力としては計算していない。
オキツグの目指すところは最速であり、作る魔法もそれに合わせたものとなっている。
火力を追及するのはカネミツの魔道である。
「それより問題はそっちだ。確かその銃、弾の数は一五発だったよな?」
「ん? あぁ」
オキツグに問われ、カネミツは手元を見下ろした。