本論二・若気の至りにも限度はある。
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『警告。機構への介入を確認。罪なき全住民は屋内へ退避することを要請します』
それは、夏の街灯に群がる羽虫にも似ていた。
黒炎を吐き出す白い頭蓋の周りで、わらわらと蠢く白い点。地上からその形を判別するのは極めて困難だが、想像するだけなら容易い。そして不思議なことに、想像してみるとただの点だったものが「そういう」形のものであるように見えてくるのだ。
大きな眼窩と歯列を晒した、人間の頭骨。
蠢いているのは、〈ワシリーサのしるべ〉のミニチュアたちである。
『介入は許されません。介入は許されません。住民は屋内へ退避を。屋外へ残っていた場合、介入者と断じ防衛機構の執行権限を行使します』
ともすると感情的に聞こえてくるアナウンスは、全てが〈ワシリーサのしるべ〉とそのミニチュアから発されているものだ。ワシリーサのドーム状の天井を利用した声の反響は、町全体に行き渡って宣告を拡散する。
生活律動調整及び「防衛」機構〈ワシリーサのしるべ〉は、思わぬ侵入者を相手に過剰な自衛機能を働かせてしまったらしかった。
「あれ、全部『子機』か?」
手でひさしを作り、〈ワシリーサのしるべ〉を見上げるカネミツは、その姿勢を保ったまま〈ババ・ヤガーの小屋〉正面玄関から外へ出た。防寒用のケープをまとっているため、旧式ライフルは銃口を下に向けて肩に提げている。
彼の前では、黒いロングコートを着たオキツグが、右目の包帯を外して黄緑色の自転車──ライジング・フリーにまたがっているところだった。
「だいたい一二七機だな」
「なぁ、『だいたい』の意味って知ってるか?」