本論一・バカにつける薬はない。
「儂のしるべは、儂が丹精込めて創った魔法じゃ。儂以外の魔法使いが、適当に作った魔力を流し込んだ程度でどうにかなるような造りはしておらん。だが、他者を拒絶した魔法は儂の支配からも逃れてしまう。あれは、ワシリーサの太陽であると同時に防衛機構じゃからな。勝手に敵を定めてしまったらしい」
やれやれ、と首を振る様子は、少女の容姿に似合わない、子供のいたずらを見た親のような呆れを含んでいた。
その感情は、学生ではなく〈ワシリーサのしるべ〉に向けられているのだろう。
ババ・ヤガーは、確かに魔法学園の学長だ。
だがしかし。教育者である以前に、魔法使いなのだ。
「ということで、優秀な生徒には特別課題を出そうかの」
反転。
親の表情を浮かべていたババ・ヤガーは、即座に子供らしい顔でカネミツとオキツグに話を振る。新しいおもちゃを見つけたときのような、楽しいいたずらを思いついたときのような、無邪気だがどこか危険な笑みだった。
そして、手を差し出す。
どこから取り出したのか、小さな掌の上には金の指輪が乗っていた。指輪でありながら判子の用途も兼ねそうな、特徴的な形状。判子として使った場合に朱肉をつけられそうな部分には、〈ババ・ヤガーの小屋〉の校章である金の鶏が彫られている。
「〈ワシリーサのしるべ〉の後頭部に、この指輪で刻んだ紋がある。それを押しなおせば、儂としるべの縁は戻り、制御がこちらに戻るじゃろう。二人にはそれをやってもらいたい」
「さっきさくっと解決するって」
「自分で、とは言ってなかろう」
笑みを深くするババ・ヤガーは、実に楽しそうだった。