本論一・バカにつける薬はない。
直後に、周囲が薄暗くなったからだ。まるで太陽に雲がかかって日光が遮られたかのようで、そうやって言えば自然現象のひとつではあるのだが、ワシリーサでは事情が違う。
地下都市に雲は発生しない。
カネミツとオキツグは、ほとんど同時に窓の外へ視線を向けた。
四階からは、ワシリーサがほぼ全て一望できた。高くて二階建ての建物か農地くらいしかない町で、もっとも背の高い建造物は〈ババ・ヤガーの小屋〉である。
故に、太陽──〈ワシリーサのしるべ〉の異様はすぐに知ることができた。
宙に浮かぶ白い頭骨はそのまま、中に孕んでいた炎が、赤から黒へとその色を変えている。そのせいで辺りが暗くなったのはなんとなく理解できるが、根底にある原因には思い当る節がない。
黒い炎を収めた頭蓋骨に二人が目を奪われていると、傍らでババ・ヤガーがぼそりと言った。
「学生じゃよ」
一度ため息を挟み、
「できると思ったんじゃろ、魔法を盗むなんてことが。はぁ、なんというか、今までなにを考えて魔法を使ってきたのやら」
教え方が悪かったのかのう、と言うババ・ヤガーは少し悲しげだった。
思わずカネミツがそちらに目を向けると、魔女は視線すら窓に向けていなかった。もとより身長の関係で〈ワシリーサのしるべ〉を見ることができない角度ではあるのものの、自嘲ぎみに苦笑する姿を見ると、それ以上の理由があるように思えてしまった。