本論一・バカにつける薬はない。
思わずツッコミを入れるカネミツだったが、今重要なのは反省文ではない。
話題の軌道を修正したのは、珍しいことにオキツグだった。
「──学長。さっき言ってた『しるべ』は〈ワシリーサのしるべ〉のことか?」
相変わらず、右目は押さえたまま。
悪ふざけの色など一切含めずに。
「なんじゃ、感じておったのか。例のカラコンの魔法かね?」
はぐらかすように言ってから、少女は肩をすくめた。
「怖い目をするでない。そこまで緊張するほどのことは起こっとらん」
「あのな、オキツグの予感と学長が外に出るのが重なったら、空から槍が降ってもおかしくねぇんだよ」
「空から槍……ふむ、地下にいれば大丈夫じゃな?」
「例えばの! 話だ!」
オキツグより質が悪い、とカネミツは辟易する。
自分の魔道を貫く魔法使いが自分のペースも貫く、というのはよくある話だが、ことこの二人に関しては極端すぎた。
「なに。このババ・ヤガー、なぁんも対策を練ってないなどということはない。多少の問題ならさくっと解決してみせようぞ」
言って、少女──ババ・ヤガーは胸を張る。
カネミツの腰程度の身長しかないので威厳や迫力は皆無であったが、その名は強い意味を持っている。
ロシアの民話にも言い伝えられる、大いなる魔女。
地下都市ワシリーサを作りだし、魔法学園〈ババ・ヤガーの小屋〉を設立した、桁違いの「魔法」を実現する魔法使いである。
「で、結局なにが起こってるんだよ」
「若気の至り」
「……は?」
問いただす暇は与えられなかった。