本論一・バカにつける薬はない。

 オキツグの言葉を裏打ちするように、どこかで慌ただしく扉を開く音がした。

 より正確に言えば、カネミツの背後からその音は聞こえてきた。

 次いで、平手で床を叩くような騒々しい足音が。

 さらに、幼い少女のものらしい声が。

「あーもーなんたることじゃ! 許すまじ! 儂の大事なしるべに近づく輩がいるなど!」

 苛立ちを叩きつけるような、駄々をこねるような言葉の羅列。

 声の主を見ずとも察したカネミツは、肩に背負い紐を引っかけたまま、旧式ライフルの位置と角度を調節して右手でグリップを握った。

 銃口は下に向けたまま、振り返る。

 危険なのは声を発している人物ではない。なぜなら彼女は、

「──む?」

 カネミツが振り返ったのと、相手が目前の人影に気づいたのは同時らしかった。

 急制動をかけて立ち止まり、少女は「ふむ」と腕を組んだ。身にまとっているのは素っ気ない白のワンピースで、靴も室内履きもない素足のまま。

 一本の三つ編みにした長い白髪をマフラーのように巻けば防寒具代わりになるかもしれないが、雪の降る季節に暖房器具のない廊下に出るような服装ではなかった。

 少女の眉根は深刻そうに寄せられていたが、数秒の後、なにかに気づいたかのように顔をほころばせた。

「おお! レポートの提出かの? しかし、それは一階のポストだと説明したはずじゃが」

 難しい問題を初めて自力で解いたあとの子供のような表情だった。

「今朝反省文書けっつったのはお前だろうが!」

「ん? ……あー、そんなことも言ったかね」