本論一・バカにつける薬はない。

 つまるところ〈ババ・ヤガーの小屋〉の精神と真っ向対立しているということなのだが、口うるさい家族から離れることを第一に考えていた彼にとって、学校の掲げる教育方針など気にするほどのことでもなかった。

 どころか、学校が教える内容などどこも同じだろうと高をくくっていたふしすらある。

 そんな彼だから、今回の課題を正面から正攻法で解決しようとは毛ほども思っていない。重要なのは学校の理念ではなく、自らへの評価を捻じ曲げ、認めさせる力である。

 ランディーが箒を進めるたび、顔に叩きつけられる熱波は強さを増した。家から持ち込んだマントに手を滑りこませ、内ポケットから取り出したのは、自ら漉いた紙と自ら流した血で構成された護符だ。

 描かれているのは、保護された領域を区切る単純な記号──円。

 護符が魔法の媒体となって発動するのは、術者の周囲を術者のための環境へと変異させる基礎魔法だ。行使した瞬間から熱波はランディーに届かず、加速に伴う圧も姿を消す。

 魔法に必要なのは万物から発生する魔力ではあるが、その魔力にも使いやすさがある。通常、術者が深く関わったモノであれば相応に扱いやすくなるし、縁のないモノであれば相応に扱いにくくなる。

 故に、ランディーの護符も強い縁を持つように作られているし、それだけ強い効力を発揮するようになっている──のだが、そこまでの「暑さ」を感じる場所は、地下都市ワシリーサの居住空間にはない。

 それもそのはず。

 ランディー・アッテンボローがいるのはワシリーサの上空──ドーム状になった天井の頂付近。炎を孕んだ頭蓋骨のすぐ近くだったのだから。