本論一・バカにつける薬はない。
「〈ワシリーサのしるべ〉……」
頭蓋骨の名称を述べ、ランディーは引きつった笑みを口元に浮かべた。
ざわざわと湧きあがって来るのは緊張か、それとも高揚か。もはやランディーには判別がつかない。ただ、今更なにもしないで引き下がることなど、できるわけもなかった。
ただし、それはランディーの主観での話。まだ彼はなんのリスクも払っていない。
今ならまだ、レポートが書けなくて自棄を起こした学生で済む。そのことには努めて目をつぶって、自分にはこの道しかないと言い聞かせるように、ランディーは計画を実行に移す。
魔法学園〈ババ・ヤガーの小屋〉は、魔法開発のための学び舎である。
なんのために魔法を使うか、という問いに答えを出せない学生は、在籍すら許されない。
けれど、十余年で積みあげられたランディーのプライドは、落第生などという烙印を許さなかった。答えを出せないのならば、力ずくで実力を認めさせればいい。よく分からない単位の物差しで測られるなら、その両端を越える力を見せればいい。
かくして、ランディーは計画を実行に移した。
生活律動調整及び防衛機構〈ワシリーサのしるべ〉──その制御を自らの手中に収める。
魔法使いの禁じ手たる「魔法の盗用」に、自信家な学生は愚かにも手をつけ、そして、
ランディー・アッテンボローの魔力が〈ワシリーサのしるべ〉に侵入した途端、赤かった炎は光を飲み込む黒へとその色を転じた。