本論一・バカにつける薬はない。

 話題を提供した本人によって反らされていく話を、カネミツが辛うじて軌道修正する。

「なんで落第生の話なんか出てきたんだよ。俺らには縁ないだろ」

「過信はよくないぞ。オレは今でこそお前の情熱を認めているが、少し気を抜いたらすぐさま切り捨てるからな」

「舐めんな。ここまで来て捨てられるほど安い情熱なんざ持ってねぇんだよ。というかちょっと待て、切り捨てられても損害がなさそうなんだが」

 むしろ、オキツグの非常識な言動に頭を悩ませなくていいだけ今より気が楽そうだ。

「ふっ、恥ずかしがらなくていい。オレはお前をライジング・フリーの後ろに乗せてもいいくらいに心を許しているんだぞ」

「……そりゃどうも」

 とめどなくあふれそうな否定の言葉は飲みこんでおくことにした。

 オキツグの言うこと為すこと全てを相手にしていると、大抵ろくなことにならない。カネミツは頭を抱える代わりにペンの尻でこめかみを押して、大して意味のなさそうな会話から思考を切り替えようとした──ところで、視線が下がって現実が突き刺さった。

 そこにあるのは、真っ白なままのレポート用紙である。

「む? なんだ。まだ終わっていなかったのか」

 席を立とうとしたオキツグが、さらりと言って座りなおす。

 誰のせいだよちくしょー、と返すだけの精神力は、カネミツに残されていなかった。