第三章

 ──卒業式のあと、会ったところで。

 メールの指定通り、私は住宅街から少し離れた川べりに立っていた。川といっても、清流には程遠い。たんぼの水をかき混ぜてそのまま流したような泥水が、上流も下流もずっと続いている。

 河川敷も極端に狭く、急な傾斜は小さな子供が川に近づくことすらためらうほどだ。両側の道も農作業用のそれとそう大差はなく、周りに広がるたんぼの中に完全にまぎれてしまっている。

 通る人間なんて、ほとんど見たことはない。このあたりは冬の間、たんぼになにも植えないものだから、さらに人通りは少ない。物好きな釣り人か、まれに犬の散歩をしている老人を見かけるくらいだ。

 遠くには、木々が密集して生える小高い丘のような山が見える。反対側には、高台に建つ小学校と住宅街があるはずだった。

「変わってないね」

 ぽろり、と私の口からこぼれた言葉は、嘘とも本当とも言えなかった。言葉が見つからないまま辛うじて出た言葉のはずなのに、本心ではないような気もする。

 彼は、こんな顔だっただろうか。よく考えれば、私はろくに彼の顔を見たことがなかったかもしれない。ぼんやりとした記憶の中より、にきびの目立たない顔になった──ぐらいは断言できる。そのくらいだった。

「そっちも、変わらないな。安心した」

「都会行って、変わると思った?」

「向こうの方が、面白い人とかおしゃれな人とかいるんじゃないの」

 聞き慣れた、ぎこちない口調。所在なさげに自転車のハンドルを握りなおす手も、どこか見覚えがある。

 変わりないようでなにより、と言う気にはなれなかったが。