X 憎しみの火に焼かれた変容の果て
ふてくされたように言いながら、【世界】は十三番の隣に並び、一枚のカードを取り出す。
描かれた図案は、そのままの形で【世界】の頭上に姿を現した。
虚空に生えた剣を持つ手を従え、【世界】は腕を組む。
「一応、私は君を、少なくとも一度は救っているんだよ?」
覚えてないかもしれないけどね、と軽い口調で付け足した【世界】に対し、十三番はわずかに息をのんだ。
剣を持つ手に覚えた既視感は、いつ忘れたかも分からない記憶の残滓だろうか。
【世界】が操る手は、宙を滑るように移動していった。その断面は煙に覆われ、正体の知れない不気味さと不可解さを助長している。
剣の切っ先に引かれ、十三番は土人形へ視線を戻す。
合唱が戻り、土人形たちの動きは元の調子を取り戻していた。錐状の腕を構え、突進する速度は先ほどまでと遜色ない。
それでも余裕を持っていられるのは、自らの手に反撃の手段があるからだ。
体の前で鎌を持ち直し、十三番は土人形へと距離を詰める。
すれ違いざま弧を描くように振った刃が、なんの抵抗も感じさせない滑らかさで土人形を切り裂いていく。人体すら容易に斬った大鎌は、死神の手にあってさらに鋭さを増しているようだった。
引きつるように痛む脇腹の傷を無視して、行く手を遮る土人形を切り伏せる。背後に置き去りにした数体を捨て置き、白服たちとの間に立ちふさがる炎の壁へ向けて駆け抜ける。
顔に叩きつける熱風とその先の炎をまとめて切り裂き、神殿の外壁に左手をかけると、二階にいた白服たちが慌てて体を引くのが目に入った。
走る勢いそのまま、白骨の腕は十三番の体を軽々と引き上げる。わずかな浮遊感ののち、二階の壁に開いた穴へ足がかかる。
足元から室内に向けて伸びた影の先に、逃げ遅れた白服の一人が座りこんでいた。十三番が目を合わせると、短い悲鳴をあげて後ずさろうとする。
邪魔だ、と思ったときには、白骨の腕が動いていた。鎌の刃を白服の背にかけ、入れ替わるように外へ放り投げる。
振り返って一瞥した中庭では、宙から生えた手が土人形を切り裂いているのが覗える。
落とした白服の最期など、見るまでもない。掠れた断末魔と生物の焼ける匂いが立ちのぼり、十三番は室内に視線を戻した。
日の光が差し込む部屋で、五人の白服たちが身構える。表情に浮かんでいるのは恐れと嫌悪。逆光の中、十三番の黒く染まった眼球と骨の色をした肌は、骸骨らしさを際立たせている。にもかかわらず、脇腹の傷から赤い血を流しているのを見れば、白服たちの嫌悪も当然だろうか。