X 憎しみの火に焼かれた変容の果て
異変を察知したらしい白服たちが、歌を構成する声を強める。蹴られた一体を始めとして、土人形が一斉に錐状の腕を構え、突進。
真っ先に距離を詰める、片腕を血に濡らした土人形へ、十三番が目を向ける。
その背後で、【世界】は咄嗟にカードを構える。しかし、魔術が発動する前に土人形の突進は止まり、さらに白服たちの歌声にも空白が生じる。
「────」
音すら死に絶える一秒。
突進と歌声を止めたのは、白骨の左腕だった。
十三番の肩甲骨から生えた骨の腕が、土人形の首を正面から掴んで止めている。
骨の色が移っていくかのように、十三番の肌から色が抜けていった。血の気が引く、というよりは、生命活動の止まった死体か、あるいは本当に骨のような色が広がっていく。
代わりに、左目は闇のような黒で埋め尽くされる。眼窩のようにすら見える左目に対し、右目の金の虹彩はまだしっかりと土人形を捉えていた。
歌が途絶えて力の緩んだ土人形を、骨の腕が地面に叩きつける。
動かなくなった土くれを離し、十三番は白骨の掌を見る。自分の体の一部と言うより、胸元に収めた【死神】を通して操る魔術のような感覚が近い。
それでも自然と扱えるのは、十三番が魔術へ近づいている証であるようにも思える。
「……君は」
吐息に紛れるような声へ振り返ると、【世界】は呆れの色を含んだ目で十三番を見上げていた。
「腹を刺される前に【死神】を使いこなせるようにしたまえ、馬鹿者」
【世界】の口元が安心で緩んでいたことには気付かないふりをして、十三番は肩をすくめる。
そのまま地面に落ちた大鎌を掴み、神殿の二階に立つ白服たちへ向き直る。
白服たちの平静は、そこでようやく取り戻された。
「異教徒が……ッ!」
吐き捨てた声からは、恐怖が拭い切れていない。それでも、合図とともに合唱は再開した。
土人形と炎が再び動き出すのを見とめ、十三番は胸元の【死神】へ意識を向ける。右の肩甲骨からも白骨の腕が生え、同様に眼球も黒く染まる。
それとともに、十三番の体から温度が抜け落ちていく感覚があった。流血に伴うものとは別種の、死そのものへ近づいていくような体温低下は、むしろ意識を鮮明にする。
「奴らのところまで行けるかね?」
十三番の背後で、【世界】が問う。
「あんな人形、相手にするのは面倒だろう。ほどほどにして、直接術者を叩くといい」
「……【世界】はどうする?」
「自分くらいは自分で守るさ」