V 世界は廻る、死者とともに
二つの杯を左右に振りながら、【世界】は話を続けた。
「一つの象徴では一つの属性しか扱えない。一つの属性を扱うだけでは単純な魔術しか行えない。では、もっと複雑な──生み出した水を自由に操り、そのままの形で凍らせて、氷の像を作るような魔術を可能にするためには、どうすればいいだろう?」
言いながら、【世界】は片足を軸にしてくるりと回る。それこそ、カードに描かれていた女神の舞を再現するようだった。
三周したところで、【世界】は足を踏ん張って回転を止める。
「私が導き出した答えが、アルカナだ」
【世界】が打ちあわせた二つの杯は、高い金属音を──たてなかった。
注がれた水がこぼれそうな勢いで、ほとんど叩きつけられるようだった二つの杯は、【世界】の手の中で一枚のカードに変化している。
カードの姿だったときの【世界】や、ニコラの持っていた【信徳】、棚の上の【死神】と似た──だが、それよりも単純な、二つの杯を描いた図案。
「象徴を複数組み合わせて、一つの絵とすることで、象徴はより強固な意味を持つようになる。魔術に必要なのは象徴と意思だが、象徴が複雑化すれば複雑な意思にも対応できるだろう?」
言って、【世界】はひらりと杯のカードを振った。
虚空から現れた水はひとりでに流れて円を作ると、そのまま凍結して【世界】の手の上に落ちる。
掌に乗る程度の、単なる氷の円環。しかしそれは、水を生み出すだけの魔術に比べれば確かに複雑化している。
「ま、試作品だとこの程度の芸当しかできんがね」
「……それじゃあ」
十三番は氷の円環から目を反らし、棚の上へ視線を向ける。
あれは、と言葉を継ぐ間もなく、【世界】の解説が挟まった。
「試作品の小アルカナを経て、さらに象徴を複雑化させたのが大アルカナだよ。複雑にしすぎて微弱ではあるものの意思を持ってしまった、私のかわいい子どもたちさ。【死神】は、十三番目に生まれた大アルカナさ」
氷の輪を放り投げ、【世界】は【死神】が置かれた棚へと歩み寄る。捨てられた氷は、虚空から生み出されたことを思い出すかのように、虚空へ消えていった。
【世界】は【死神】を手に取ると、その表面を指で撫でる。
「元は私の弟子のために作ったものなんだがね」
その声は、わずかに憂いを帯びて響く。
十三番の脳裏に瞬くのは、【死神】と大鎌が置かれていた部屋の風景だった。あの場所に収められたカードが全て大アルカナだったのならば、その持ち主たちは──