V 世界は廻る、死者とともに
十三番は、馴染んではいるものの名乗りにくい名をどうするべきか数瞬考え、
「彼の名前は十三番になったぞ」
【世界】に先手を打たれた。
息をのむニコラを無視して、【世界】は続けて呟く。
「そういえば、理由についてきちんと説明していなかったな」
ちらりと十三番へ向けられた【世界】の瞳は、白い髪に似合わない漆黒色をしていた。
一瞬の視線の交錯でなにを感じたのか、【世界】は薄く笑うと、寝台の足側に座り、ニコラに話を向ける。
「革のベルトを取ってきたまえ」
「っ、なん、ですって?」
「十三番が鎌を背負えるようなものを。腕代わりに風魔術が必要だろう」
ほらはやく、と手をぱたぱた振る【世界】は、反論どころか話を変えても聞く耳を持たなそうだった。
ニコラはしばらく渋い顔をしていたが、諦めて壁に立てかけた鎌を手に取り、おおよその大きさを確認する。その途中で、十三番に「【世界】がうっとうしかったら言ってください。なんとかします」とだけ囁くと、ニコラは足早に部屋を出ていった。
なぜか上機嫌に足を揺らす【世界】は、複雑に編み込んだ白髪を耳にかけて笑う。
「私はうっとうしいかね?」
自虐というよりは確認のような問いかけだった。
だが、十三番にとって、【世界】に対する感情などさして重要ではない。【世界】の問いには首を振って答え、言葉を付け足す。
「説明不足だ、とは思うが」
【世界】は数瞬言葉を失って、それから「もっともだ」と呟いた。
頬に手を当てて数秒、首を傾げてさらに数秒。考えるような素振りを見せた【世界】は、ようやく口を開いた。
「まずは魔術の話から、始めようか」
「……必要ならそうしてくれ」
また話を反らそうとしているのでは、と身構える十三番に気付く様子もなく、【世界】はついさっき座ったばかりの寝台から立ち上がる。
「四属性を、象徴と意思を用いて操るのが魔術。だが、魔術は総じて単純になりがちだ。たとえば、『水』の象徴の『杯』を使って一杯分の水を生み出すとか」
言いざま、【世界】は金属製の杯を二つ、どこからか取り出して両手に持つ。
杯同士を打ちあわせるとわずかな水音がして、中に水が満たされたのが分かる。
「飲むかね?」
「今のはうっとうしい」
「ふふ、君は愉快だな」
寄せられていた十三番の眉が、片方だけ上がる。なにが、と問うと話がまた脱線を始めそうで、開きかけた口を閉ざす。