V 世界は廻る、死者とともに

「いや、待て。弟子のためのもの、だと?」

「ん? あぁ、君が初めてだよ。私の弟子以外でアルカナの持ち主になったのは」

 一拍置いて、【世界】は十三番へ顔を向ける。

「ニコラも私の弟子さ」

 意地の悪そうな表情を浮かべた、どう見ても十代半ばの少女の顔で言われると、信憑性が著しく損なわれるのが現状だった。そもそも見目だけを考えれば、【世界】とニコラは孫娘と祖父くらいに歳が離れているのだ。

 とはいえ、【世界】を「見た目で判断する」のは意味がないようにも思える。

 冷静さを取り戻した十三番の思考は、【世界】がツタ性リースを頭に乗せる前の姿を思い出していた。

「ほら、もっと驚いてみたまえ」

「……カードが喋っていたと考えれば、特におかしくないような気もしてきた」

「なんだ、つまらん」

 ふてくされる【世界】は、【死神】を口元で揺らしながら頬を膨らませる。

「もうちょっと面白い反応を返してくれると思ったのだが……っと、失礼」

 ぶつくさ文句を言っていた【世界】だったが、その中途で言葉を切ると、好き勝手に扱っていた【死神】を、慌てて寝台の上に置いた。

 十三番のちょうど真横に置かれた【死神】に、変わった様子は特にない。

「どうした?」

「【死神】はもう私の子ではなく、君の半身だ。私が好きなように扱っていいものじゃない。……まだ、実感はないかもしれんがね」

 言うと、【世界】はかすかに目を伏せた。

 半身。それは、カードそのものの姿を持つ【世界】を見たあとであれば、なんの違和感もなく受け入れられる表現ではある。

 さらに言えば、【死神】にとって都合のいいように誘導される意識を、十三番はついさっき自覚したばかりだった。

 十三番などという名前を違和感なく受け入れたのは、【死神】の影響ではないか?

 問おうとした十三番を遮るように、廊下から足音が聞こえてきた。

 その歩調が急いでいるのは、音だけでも分かる。入室したニコラは息こそ上がっていなかったが、十三番と【世界】の様子を見て、安堵のため息をついた。

 その手には皮ベルトと留め金、そしてそれらを加工するための道具が入っているらしい箱が。

「ひとまず……何事もなかったようで、なによりです」

「ニコラは私をなんだと思ってるんだね?」

「言っておきますが、あなたが説明を面倒くさがって他人の精神を不安定にさせた回数は、両手の指では足りませんよ」

 咎めるようなニコラと、身に覚えのある十三番の視線が【世界】に向けられた。