第一章 日常茶飯/街の風景A

 その行動が正義であれば、それは必ず受け止めなければならないのか?

 ――違う……! 正義だ悪だなんて話は言い始めたら埒が明かねえ。だけどあの人は何か人道に背く事をしたのか? 道義に反する事をしたのかっつう話なんだよ!

 例えば道端に空き缶が落ちているとしよう。誰が捨てたのかは分からない。その道を通る人々は皆、空き缶の存在を無視する。

 それは何故か?

 答は単純。自分の捨てたゴミでは無いからだ。

 そして通行人の心理は得てして同じだ。

 拾ったら、自分のモノだと認めた事になる。拾っているところ誰かに見られたら、自分が捨てたと思われるかもしれない。

 自分はゴミを捨てるような人間ではないという証明において、道端の誰の物とも知れないゴミを拾う行為というのは大義名分として『都合が悪い』という事。

 ――要するに、GUILDの奴らは都合が悪いんだ。わざわざ俺の頭から消した名前についてのデータを保持する人間が存在する事が。

 邪魔ならば消す。という身勝手極まりない振る舞い。

 まだまだ確証はないし断言もできないが、GUILD側が振りかざすであろうアクションには、道義から踏み外れた裏がある可能性が高い。

 それと併せてマ王は自分が立てた仮説に確信めいたものを感じた。

 GUILDが名に関してそれほどまで過剰に反応するのであれば、裏を返せば本当の名を取り戻す事が何かに繋がる可能性があるという事なのだから。

 マ王は拳を固く握りしめる。

 今のところ全て予測の話なのだが、マ王が憤り、行動する理由としては十分すぎる材料がそこに揃っていた。