第一章 日常茶飯/街の風景A

 しかし物品金銭のやり取りは、最終的にはGUILDに還元されるから、結果、流通のシステムで全てがあばかれる。だから、盗んだのがGUILDの手の者であろうとなかろうと関係ないのだ。

 ――…………俺は、あの人に……何も返せてねえ。

 マ王にとってテンチョーは、恩人だった。

 四年前、電脳世界に幽閉される事となったマ王を助けた、ただ一人の人間だった。

 それは、助けた側からすれば普通の事だったのかもしれない。事実、世話好きな一面を持つテンチョーは、そういう慈悲を無償で振りまく人間だ。

 テンチョーの優しさは、助けられた側のマ王にとって何よりも重みのある事だったのだ。

 その恩人が今まさに、自分に関わってしまった事で命を狙われるかもしれないという状況に陥っている。

 ――あの人が何をした? あの人は普段通り世話を焼いただけじゃねえか。それが何だこりゃあ……あの人は、俺の名前なんぞのせいでリスクだけを背負う羽目になったっつうのか?

 善行をする人間が馬鹿を見る構図が、皮肉にも出来つつある。

 テンチョーがマ王に向けた慈悲は、言ってしまえばただの身勝手だ。自分自身が起こしたアクションだ。他人が止める権限も否定する余地も、そこには存在しない。

 しかし、だからこそ、だからこそマ王は憤る。

 ――あの人が自分で決めた行動には、少なくとも悪意は無え。あったとすればそれはあの人の中にある条件反射だ。

 では、悪意が有ればそれは止めなければならなかったのか?

 始めから恩を売るのが目的であり、何か裏があったのか?