第一章 日常茶飯/街の風景A

 アキラはメイド服のポケットから取り出したスマートフォンのマップアプリケーションを展開しながら続ける。

「見つけてから追い掛けて外に出るまで三〇秒もかからない。見て。この裏通りは主道と小道を含めても、そんなに複雑じゃないんだ」

「他の店に入ったんじゃねえか?」

「うん。探したんだけど……」

「……いなかったのか」

 マ王の一言を、アキラは重々しく頷いて肯定した。

「じゃあアレか? 現実世界の人間か?」

「もしそうだとしたら、たぶんだけど見つかった時点でソッコー無理矢理ログアウトするよ」

 的を射た答えに、マ王は舌打ちをする。

 事が起きてから時間が経過している。この人通りの少ない区画を抜ければ大通りはすぐそこだ。それに加え、夜の新東京市はこれからまだまだ人が増える。

 人を隠すには人の中。まさに、打って付けという訳だ。

 今現在、その盗人がGUILDの手の者だという確証はない。もしかするとその辺りにいるゴロツキが気まぐれにやったのかもしれないし、窃盗を生業とする輩が盗っていったのかもしれない。

 全て可能性の話である。

 ただ、それでもテンチョーが危険だという事に変わりはない。

 そう。

 例え盗んだのがただのゴロツキであろうと、窃盗を生業とする人間であろうと、そこからメモリが金銭交換的なやり取りで流出しては、GUILDが手中に収めた事と大差はない。

 GUILDはこのゲームを取り仕切る大本締め。

 要領が膨大すぎるため、各プレイヤー及び住人の把握は常時できず、エージェントでその機能を代替しているという内輪事情があり、例えば電子薬物など、違法性があるものを抑制できない理由はここにある。