第一章 日常茶飯/街の風景A

 一つの推測が脳裏を過ぎったからである。

 USBメモリを持ち去ったのが盗人やその辺のゴロツキならば、手に入れたところで使い道はない。

 しかし、例えばマ王の名前に関して、忘却に直結する理由を持つ者が手に入れたとなれば。

 もし、USBを盗んだ人物がGUILDの手の者であった場合、事態は一変する。

「…………」

 表情が曇る。

 マ王は一度泳がせた視線を再びアキラに向け、心の中で焦燥する。

 もしもGUILDがそれを手に入れたとなればメモリは当然ながら破壊されるが、そんな事は前述した通りどうでもいい。情報を知る者が作り直せば事足りるのだから。

 マ王が焦燥する理由はそこにはない。

 メモリの破壊、情報の隠匿は根本的な解決にはならない。

 全てではないらしいが情報が漏れ出してしまっている以上、それを知り得る人間が危険に曝される恐れがある。

 端的に言えば──メモリの制作者であるテンチョーが狙われる可能性があるという事だ。

 込み上げてくる不安を飲み込んでマ王は口を開く。

「…………で。状況はどんな感じなんだよ?」

「今、うちのコ達が調べてる。盗まれた時間は正確じゃないけど多分、二十分くらい前。その時間帯は店の準備時間だったから人が少なかったんだけど……」

「いやしっかし、店の従業員っつったら米国海軍顔負けの結構な武闘派だろ。それを振り切ったっつうのか?」

「戦闘痕は無いし、姿は見たっていうんだけどすぐに見失ったらしい。って事はだよ、」

 アキラは人差し指を立てて、

「メモリを盗んだ人は、店内の構造もしくはこの裏通りに土地勘がある可能性が高い」