四、火焔
これだけ五感は良好であるのに、しかしてハッキリとしない事がある。
──僕は、生きているのだろうか。
自分は一度死んでいる。
にも係らず、呼吸は正常だ。心臓も動いている。腹も減れば眠くもなる。
自己が持っている人間としての最後の記憶は既に停止しているはずなのに、〈この地〉で目覚めた後も愚鈍な脳髄は相変わらず煩悩で満たされている。
この事についてロビンは、先ほど後方に置き去りにして来てしまった大剣の男アルヴィンスに問うた事があったのだが、その返答はやはりハッキリとしないものだった。
答えられなかった事をアルヴィンスは謝罪してきたが、恐らく、彼自身も自分が置かれている状況を全て把握できている訳ではないのだろうとロビンは推測する。
では、仮に自分が生きているとして、二度目の生を受けた理由は何かと問われれば、思い当たる事が一つだけある。
それも例によって正誤は明確ではないが──
大量の火薬が一斉に炸裂する音が再び木霊し、先よりも数を増した弾雨が容赦なく降り注いだ。併せて、砲台の後方で構えていた戦乙女の軍勢が、戦場に散らばる男たちをすれ違いざまに切り伏せてこちらに突撃してきている。
ロビンと軍勢の距離が無くなるのに時間は掛からなかった。
まず先頭を駆けていた騎兵三機が接近。それぞれ好機を計って長槍を振り抜くが、ロビンは身を翻して回避。騎乗した者たちを蹴り飛ばして着地する。
その刹那、乾いた雷鳴が耳をつんざいた。
反射的に音がした方向に視線を走らせると、雷光が頬を掠めていくのが辛うじて視認できた。微弱な痺れを感じたが致命傷には程遠い。