四、火焔

 そうしている間に間合いを詰めていた歩兵二七人がロビンを取り囲む。

 逃げ場はない。回避する隙も暇も。斬撃を受け止め、流す武器すらロビンは持ち合わせていない。

 ぽたり、と。

 不意に、頬の傷から滴った血がガントレットに落ちた。

 銀に落ちた一滴の赤から燃え上がる様な温度が伝わってくる。腕甲に付着したそれは発火して小さな火種となり、瞬時に灼熱──炎上。一気に拳を覆い尽くした。

 戦乙女たちが振り上げる刃の煌めきが視界の隅に映ったがロビンはそれには一切目もくれず、地面に向かって力任せに拳を振り抜く。

 次の瞬間、ドン、という衝撃音が周囲に響くと同時、叩き付けた拳を中心に焔が広がった。

 火焔を伴った衝撃の波紋は数メートル圏内にいた者たちをまとめて吹き飛ばし、大地もろとも焼き尽くさんと猛る。

 ロビンは口角を上げ、邪悪に笑った。

 眼窩におさまった碧眼はやはり前方を見据えている。

 そこいら中に転がった女たちなど初めから眼中にない。

 ロビンが見据えていたのは、戦場の中心からこちらを見返している人物。自分と同じ銀色の髪を持つ女ただ一人だけだった。

 視線から殺意が伝わってくる。静かな闘志が大気を震わせているのが分かる。彼女が放つそれらは、焼野原と化した大地に横たわる者たちの比ではない。

 遠方、彼女がもらす言葉が耳に届く。

「──退くと言うのなら赦す事もやぶさかではないぞ、従僕」

 それに対するロビンの返答は、無言だった。

 彼女が動かずにいたのはかつての僕(しもべ)に対するせめてもの情けだったのか。