四、火焔

 凛とした彼女の表情が僅かに歪む。歪むといっても片眉が動く程度ではあるが。

 しかしそれでも何か言いた気である事はおよそ読み取れる。

「不満でも?」

 促すが彼女は何も答えなかった。

 否、それが正しい。

 無言である事が答。瞳の奥底に青い焔をたぎらせているのを見れば、言わずもがな彼女の精神が不満に、あるいは怒りに満ちているのが分かる。

 ──それ程までに解せんか。〈この地〉に異端が存在する事が。

 そんなものは自業自得だと男は笑う。

 因果応報だと鼻で笑い飛ばす。

 男は身の丈もある武骨な大剣を片手で持ち上げ、切っ先を真正面に向けながら、戦乙女を見据えて吐き捨てた。

「今日を以って己れたちは、ヴァルハラを降りる」



 幾つもの爆音がしたと思ったらその直後には鉄球の雨が降り注いでいた。

 着弾と同時に巻き起こる爆風と爆炎に巻き込まれ、幾人もの男たちが悲鳴をあげる間もなく吹き飛ばされた。

 そんな硝煙弾雨の中を、少年ロビンは駆け抜ける。

 銀の髪が跳ね、服の上から被った銀色の胸当てとレガース、腕甲が赤い閃光を反射する。

 ロビンが見据えるは鉄球の砲台が並んだその更に先。数百もの戦乙女たちが構える戦場の中心だ。

 ロビンは迫る鉄球を回避し続けながら思った。

 身体が軽い。視野角が広い。

 鉄球の弾道が手に取る様に分かる。踏込みの一歩一歩に力がみなぎる。

 風を切る、という感覚が実感できていた。

 この戦場を生き抜く力。活路の存在というものを感じ取っていた。

 しかし、分からない。