四、火焔
甲高い金属音が蒼穹に鳴り響いた。
叩き付けられた剣戟は、重い。受け止めた瞬間、足が地に沈み、殺し切れない衝撃が腕を伝って身体を直下していった。
はからずとも、受け止めた無銘の大剣が破断しなかった事に疑念を抱いてしまう程の強烈な一撃。もしもあと刹那でも見切りが遅れていたら、双眸に宿った光は失われていただろう。
およそ女が振るう力ではない。
つい数分前まで兵士でありそして奴隷であった男は、交えた剣の先にいる鎧纏いの女を睨みつけながら改めて彼女たちが振るう膂力を呪った。
戦乙女(ヴァルキリー)。
眉目秀麗。明眸皓歯。
輝く麗髪をなびかせ、瞳に碓氷を宿し、神の意志を以って戦場を駆る凄女。
そんな存在に対し、たかが人間ごときが、人間だった者ごときが立ち向かうなど〈この地〉に存在するどんな歴史書にも預言書にも書かれていない事だろう。
戦乙女は鍛え上げられた屈強な戦士だ。
だが、
それが男にとって尻込みをする理由にはならない。
もはや人間という括りから大きく外れた者となった男は、男たちは、〈この地〉において誰よりも自由で何ものにも縛られず、そして比類なき存在だ。
割れる地を踏みしめ、上から覆い被さってくる圧力を押し返しながら、男は共に幽閉されていた仲間の名を叫んだ。
「行け! ロビン!!」
直後、男の横を銀髪の少年が駆け抜けた。
それを見た戦乙女が叩き付けた剣を浮かせ、少年を追いかけようと地面を強く蹴り出した────のだが、大剣の男に瞬時に回り込まれ道を阻まれた。