一、ロビン・ウォルタナの後悔
死の直後、酒場に召されるなどという話は聞いた事がないのだけど、これが噂に聞く死後の世界かとその時は思った。
僕は生前、執事のアルデバートや大臣のホプンに死後の事について聞いたことがある。
二人の話によると死というのは、『肉体の消滅。魂の解放。精神のみという本来の姿を取り戻し、天上に昇り、痛みも辛さもない至福の時を迎えるためのプロセス』なのだそうだ。
今思えば、それは妄想の類だったという事が分かる。
彼らは死んだ事がない。ゆえに事実を語る事はできない。
対して僕は死んだ事がある。ゆえに真実を語る事ができる。
死者である僕の見解からすると、死というのは…………死と、いうのは…………。
……………………。
よく分からない。
そもそも、生と死という概念自体がよく分からない。
生というのが、息をし、物を食べ、笑い、泣き、尊ぶものだとすれば、今の僕だって同じ事ができる。酸素が欲しいから呼吸をしているし、空腹からか腹の虫が鳴いている。この状況に辟易、混乱、思考するだけの精神もある。
何が違う?
死を迎え、なお生命活動を行っている僕は、一体どちらに該当する?
考えふけっていると、酒場の中心からどよめく声が聞こえてきた。
何があったのかと思い、そちらの方に目を向けると、鎧を身に纏った女性四、五人の姿が騒ぎの中心にあった。
彼女たちは言った。
「従僕ども、汚れた手で我らに触れるな」
直後。
鮮血が舞い、肢体が吹き飛び、それまで人の形を成していた者が物に変わる瞬間を僕は見た。