一、ロビン・ウォルタナの後悔

 重く閉ざされた黒の部屋の外では、火薬が爆発する音と乾いた雷鳴が轟いていた。

 主を失った部屋の中は石造りで狭く、天井の小さな穴から差し込む僅かな光が室内を辛うじて照らしていた。

 壁が、床が、天井が、静かな黒光りを放つ。

 そんな独房とでも言うべき空間の中心、石畳の上、天井の穴から差し込んだ光の下に、紐でつづられた紙の塊があった。

 一枚一枚の紙を幾重にもしてまとめた物らしい。

 紙の大きさはまばらで材質も異なり、書物の様に項を送ることが出来るのだが、開いたそばから崩れてしまいそうなほど造りは粗雑で、端々には血の様な赤黒い何かが付着していた。

 不意に、その『不完全な本』の項がはらりとめくれた。天井の穴から爆風の余波が流れ込んできたようだ。

 材質から見るに羊皮紙と思しきそれで作られたページには、こんな文字が刻まれていた。


 ──僕の一度目の最期と、二度目の記憶をここに記す──


   ◇・◇・◇


ロビンの日記より 一部抜粋


 僕は死んだ。

 比喩でも何でもなく、言葉そのまま意味そのまま。

 心臓が活動を停止し、脳が思考を止め、血潮が錆びついた。

 僕の場合、殺されたと言った方が正しいのだろうけど、どこをどう歪曲させても死したという事実は変わらない。絶命したという結果を変える事はできない。

 できないはずなのに。

 およそ不可能だと思っていたのに。

 僕の心臓は鼓動を再開し、脳髄は思考を継続し、血は脈々と身体を巡っている。

 …………。

 意味が分からない。僕の命は、あの雪山で確かに終わりを迎えたはずなのに。

 目が覚めたら温かみのある木組みの天井が見え、身体を起すと周囲には大勢の人々の姿があって、立ち上がるとそこが酒場であるという事が分かった。