一、ロビン・ウォルタナの後悔
たびたび戦場に出兵していた僕には聞き覚えのある水気を含んだ鋭い残響。
彼女たちの手には今でこそ何も握られていないが、腰から下げた剣を掴み、刹那に抜刀する所作は並みの技術ではままならない。
耳の奥に残る斬撃音。
斬撃音というのは刃を振るう人間によって違うものだ。
僕はこの斬撃音を、どこかで聞いた覚えがある。
「こうなりたくなくば気安く触れぬ事だ。もっとも、お望みとあらば切り刻む事もやむなし」
女性の中の一人、僕と同じ銀髪の女と目が合い──瞬間、煮沸した感情が腹の底に湧き、一気に脳髄まで駆け上がってきた。
頭蓋が熱い。呼吸が乱れる。全身がざわめく。
この感情が『憤怒』だと判断するのに時間は掛からなかった。否、この怒りを忘れるわけがない。
何故ならあの銀髪の女は、僕が殺したいと願っている女だったのだから。
煮え滾る感情が捲し立てるように頭蓋まで押し寄せ、僕は、次の瞬間には女の懐に飛び込んでいた。人垣のバリケードを押し退け、女の名前を叫びながら。
しかし、振り上げた拳は届かない。
その場にいた女の仲間に取り押さえられ、地に伏せられたのだ。
そんな僕の姿を見て、銀髪の女はまるで興味がなさそうに鼻で笑い、捨て台詞を吐いて酒場から消えて行く。
「──ふん。宴は終わりだ。全員牢へ戻れ」
なす術もなく独房のような部屋にぶち込まれたのは、そのすぐ後だ。
◇・◇・◇
側頭部が痛い。
薄い布切れ一枚と台座があるだけの狭い部屋に投げ込まれた際、床や壁に頭をぶつけてしまったらしい。