六、存在意義
『ブラン・エフェメラルの代のシリーズは、全機体二機で一対。その理由は、感情にある。神経系を直接機体にぶち込むお前さんの乗り方は、下手をすれば機体の損傷とともにパイロットの死に直結する場合がある。その苦痛が少しでも軽減されるようにという配慮が根底にあるんだ。これがもしも感情があった場合、痛みはダイレクトさね。でもね、感情は、神経だよ。お前さんが嬉しければ、それは機体にちゃんと伝わる。お前さんが悲しければ、それもちゃんと機体に伝わる。お前さんが勝ちたいと思えば、伝わるのさ!』
そして、と綾乃は続ける。
『パイロットが二人。これは根性論で精神論なんだがね、二人の方が、強いに決まってんだろう?』
それが真意なのかどうかはともかくとして。
蒼衣は考える。感情というものを。
鋼介が殴り飛ばされたとき、胸の中に灼熱したものがこみ上げてきた。真っ赤なそれは────怒り。
数年前、雪が降りしきる中で逃げ惑っていたあの母娘の死を見たとき、胸の中にこみ上げてきた青い熱は──悲しみ。
その他にも、いくつもあった。形容しがたい胸の中にわだかまる様々な色の熱。
蒼衣はその正体に辿り着く。そして同時に思う。存在意義とは何なのか。
思案しているとコクピット前面中心にウインドウがポップアップ。
SONICモードに移行しますか?
押せば何かが変わるのかもしれない。踏み込めば、何かが変わるのかもしれない。
それは分からないけれど。
──私は、帰ってきた感情を、二度と捨てたりはしない。