五、黒光

 開発の責任者であった綾乃は、たとえば敵国に拿捕された場合、知りうる技術を開示しなければならない状況に追い込まれる危険がある。

 逃亡者の漆原蒼衣は、持ち出した機体ごと捕獲された場合、戦力の解析をされる危険がある。

 どちらがどちらも、軍の都合。国の都合である。個人の危険は考慮されていない。しかし、それが国のためだった。

 でも。

 それでも。

 ──あんまりじゃないか…………!

 鋼介は身体を起こしながら拳を握って身体を震わせる。

 理屈は分かる。理由は分かる。

 だけれど。ならば。

 人ごときが人に与えるなよと鋼介は思う。

 それに、言ってしまえばこの事態は、自分が作り出してしまったと言っても過言ではない。やっとの思いで購入した石が、ヒヒイロガネだと知らなかったとしても、この状況は鋼介が原因で起こってしまった。だったらやる事は決まっている。責任の取り方は、決まっている。

「おい、お前!」

 鋼介は黒銀機体に向かって言う。

「お前の目的はヒヒイロガネなんだろ! だったら持って行けよ。僕が、僕が持ってるから! ばーちゃんと蒼衣姉ちゃんは関係なくはないんだろうけど、でも、そんなの、後付けの理由じゃないか! 見落としてたのはお前だ! それを、思い出したように蒸し返して、後付けて────」

 途切れる鋼介の声。

 黒銀機体の左腕が軽く振るわれ、捉えられた鋼介の身体が吹き飛んだ。小さな体は砂上を転がり、テントに突っ込んでようやく動きを止めた。