五、黒光
そんな事は知らなかったでは済まされない。聞いてしまったからには、事情を聞いてしまったからには。
しかし鋼介は迷う。四年もかけてようやく渡すことができるかもしれないプレゼントを、危険だからといって手放すのか。それとも大切な人を危険な目に合わせないために、右手にある物を差し出すのか。
守る。
それが、鋼介が自分に課した存在意義である。ならば、大切な人を危険にさらす行為というのは────。
「鋼介!」
言いよどんでいると後ろから声。振り返ると蒼衣が医療テントから飛び出してきていた。その後ろからは祖母・綾乃が。
二人の姿に気付いた黒銀機体が、驚いたように声を上げた。
『…………生きていたのか』
その言葉は蒼衣に向けられたものなのか、綾乃へ向けられたものなのか。
否。
その両方。
『MADOの全容を持って行方を眩ませていたプロジェクトの責任者・漆原綾乃。機体を持ち逃げて死んだはずの先代、ブラン・エフェメラル…………おいおいおい。こりゃ、どういうこったい。国際指名手配級の犯罪者が、揃いも揃ってこんなとこにいるなんてよ。こいつはどうやら、ヒヒイロガネどうこうの話じゃなくなってきたな』
ドラゴン・フライ及びMADO開発の全責任者、漆原綾乃。
脱軍の逃亡者、漆原蒼衣。
二人は軍に所属していた。所属していながら、その技術の粋を外に持ち出した。