四、漆原鋼介

 父よりも母よりも、なによりも大好きだった姉──蒼衣姉ちゃんによく似た人を見つけた瞬間、僕は、泣いてしまっていました。姉の名を、叫んでいました。

 蒼衣姉ちゃんによく似たその人は、右目から血を流していました。身体のあちらこちらがズタボロになっていました。僕が叫んでいたのは、もしかしたら、また蒼衣姉ちゃんを失うかもしれないと思ったからなのかもしれません。

 とにかく僕は、蒼衣姉ちゃんによく似たその人を、キャンプまで連れて行ったのです。

 これが四年前の話です。

 僕は最近誕生日をむかえ、十二になりました。

 日本における成人とみなされる年齢は二十だったようですが、そのルールはだいぶ前に廃れてしまったようで、誕生日当日に祖母からお酒をいただきました。すごくまずかったです。

 蒼衣姉ちゃんが生きていたら、十四歳になります。

 僕が助けたその人は、少し大人びていましたから年齢までは一緒とはいかないのでしょうけれど、でも、似ているものは似ているのです。瓜二つです。三つかもしれません。

 そして偶然にも、僕がその人を助けた日というのは、蒼衣姉ちゃんの誕生日だったのです。

 なおさら。

 ことさら。

 ともすれば、何か暗示のようなものを感じても、おかしくないじゃないですか。

 キャンプに連れ帰ってから、その人は、すぐに目を覚ましました。

 僕は、名前を聞きました。

 好きに呼んだらいいと、その人は言いました。

 影を重ねるのはよくないことです。だって、その人はその人ですから。その人という個人ですから。