三、漆原蒼衣

 断末魔さえなかった。

 彼女たちが生きた痕跡すら、残らなかった。

 私は、直後には絶叫していた。何故なのかは分からない。しかし、胸の奥底から込み上げるような、押し寄せるような何かを感じた瞬間、叫ばずにはいられなかったのだ。

 熱い。

 熱い何か。

 それから私は、考えるようになった。

 あの母親は、子供の盾になるという役目を誰かに与えられたのだろうか、と。ああなる事を理由づけられていたのだろうか、と。

 それならば私と同じはずだと。

 ……分からない。そうであるならば、あのとき感じた熱の正体は一体。あの母親が私と同じであるならば、私は──思うところなんて、何かを感じる事なんてないはずじゃないか。

 それから私は、軍を飛び出した。

 知りたくて。

 ただ知りたくて。

 理由の、目的の、存在意義の根幹にある物の正体を。

 ──そして四年前の、あの夜に繋がる。

 軍を抜けた私を排除するために寄越された人型機体、〈MADO\frame‐next〉。

 私が駆る機体の正統後続機シリーズであるそれ。つまるところの後輩に、私は迎撃された。

 奴は言った。「あんたらの伝説は、すでに過去なんだよ」と。

 正論だと思う。与えられた存在意義を示すこともできず、勝手な思考で、衝動的に独断に踏み切った。

 それでも、私は生きている。

 墜落時、近くにいた少年に助けられた。あれから四年もの歳月が経っているが、私が生きているということが知れたとしたら、奴は、軍は、間違いなく私を消しに来るだろう。

 そうなる前に、私はここを去らなくてはならない。