二、砂二埋モレタ国

「それで、綾乃さん。結果は?」

 問うと綾乃は、後ろを向いて周辺に散らかっている道具を片付けながら簡単に応える。

「だから、言っているじゃないかい。正常だ、とね」

「そうか……! そう、か……」

「おや、嬉しくないのかい?」

「……意地悪だな、綾乃さんは」

 年の功さね、と綾乃は言う。

「お前さんの右目は治らないが、他の怪我についてはほぼ完治しているよ。四年間、よく頑張ったね」

 右目網膜剥離。

 全身複雑骨折。

 それに伴った神経の一部損傷。

 全部が全部、元に戻ったわけではないが、足りない部分はリハビリテーションでなんとか補っている。塞がった右の視界は、最初こそ遠近感は掴めなかったが、残った左目でカバーリングできるようになった。

 歩くことができる。走ることができる。

 考えることも、笑い、悲しむことも。

「奇跡的だとも思うよ。あんな状態から、四年でここまで回復するなんてね」

 これも、〈ドラゴン・フライ〉の成せる業か。と綾乃は呟く。自嘲気味に。嘆息交じりに。

「まさかここまでの完成度とは……ドラゴン・フライ。これが、最終兵器が最終兵器たる所以というやつか。いやはや、まったくどうして。私のところに辿り着くなんてねぇ。これも因果かね」

 ドラゴン・フライ。

 かつて、そう呼ばれていた人間がいた。

 正確には、プロジェクト・ドラゴン・フライ。

「蒼衣……すまないね」

「? なぜ綾乃さんが謝る」

「背負わせてしまったこと。お前さんに背負わせてしまったこと。……前にも話したね。私は昔、プロジェクトの技術者だった」