二、砂二埋モレタ国
「寝てたのかい?」
「……ああ、すまない」
「生返事とは随分だね小娘。しゃきっとせい」
ぺしり、と額を叩かれ、夢うつつというか、いまいち定まらなかった意識のピントがようやく合いだす。
「名前を言ってごらん」
「漆原蒼衣(うるしばらあおい)」
「歳は?」
「二十六」
「何かおもしろいことを言ってみな」
「隣の客はよく柿食う客だが、しかしどうだろう。客というくらいだからどこかの店の中でのことなのだろうけど、柿を置いている店というのは、私は寡聞にして知らない。しかも『よく柿食う』ということは少なくとも、少なくともそう思えるだけの量はすでに食べているわけで、仮に大量に柿を仕入れてある店があったとして、恐らくたぶん、それほどまでに柿を食う客なんてその人くらいしかいないだろうと思う。思うし、そこまで食べるのなら柿が好きなのだろうとも思うのだが、好きだからといってそこまで食べられるかと聞かれれば、私は首を縦には振れない。ともすればその客は、よく柿食う客、というよりは、柿の魅力に憑りつかれた客────柿に喰われた客と解釈するのが正しいのだろう」
「……ふむ。正常だね」
「正常か」
「長い上につまらない。この事実が、お前さんを正常だと言いせしめてるよ」
「ありがとう、綾乃(あやの)さん」
「いや、礼を言われる流れではなかったよ」
淡々と、のらりくらりとやり取りを終わらせて、蒼衣はベッドから起きた。右目に鈍い痛みが走ったが、いつものことだった。
ここは砂漠のオアシスにあるキャンプ。その中でも一際大きなテント。医療テントの中だ。