二、砂二埋モレタ国

 上げていた視線を街に下ろす鋼介。見える街並みは、テントや鉄骨がむき出しの建造物が多い。しかしこれでも、東京は未だに日本の中心だった。

 過去に起きた大規模な磁気嵐の影響で電子は一度死に絶え、気候の混沌に伴って周囲は砂漠と化し──しかしそれでも、東京は未だに日本の首都だった。

 ぶわり、と。再び風が。

 鋼介は首からぶら下げていたゴーグルを付け、コートのフードを被って街の出口へ向かう。

 鋼介は、砂漠になる前の世界の形を知らない。

 しかし、知っている。

 環境が荒廃したのと、街が荒廃したのは、時間軸が時代が違う。そもそもの理由が違うということを。

 大規模な太陽フレアの放出。それが環境荒廃の原因であるならば、街の荒廃は、戦争が原因だった。

 父と母と、大好だった姉を失った、あの戦争は未だ続いている。

 現状。渦中。真っ只中。

 敵の攻撃が始まった時に鳴るサイレンを、今日はまだ聞いていない。無骨な鉄塔が叫ぶ警鐘は緊急避難の合図。願わくば、今日は鳴らないことを──この大事な日にだけは、鳴らないことを。

 足早に街を出た鋼介は、近くに停めていた車輪のないバイクにまたがって、その場を後にした。


   *


「────い。────おい。──────蒼衣(あおい)!」

 名を呼ばれ、飛んでいた意識が戻って、はっとなる。

「これ、聞いておったか? 終わりだよ」

 つなぎ服を着た(といっても上半身はTシャツで、袖を腰でしばっている)隻腕初老の女性が、前髪を掻き上げながら言う。