二、砂二埋モレタ国

「お買い上げ、ありがとうございました。帰り道、気をつけて」

 ようやく手に入った。

 日稼ぎの、決して多くはない収入から貯蓄を捻出し、四年近くかけてようやく手が届いた。

 店主の声を背に受けながら、店から出てきたばかりの少年・鋼介(こうすけ)は、麻袋の中をのぞき込んでにんまりと笑った。

 黒い鉱石。

 薄汚れて傷だらけで煤だらけの、石ころ。

 こんなモノが何故高価なのか、鋼介は知る由もないのだが、とにかくようやく手に入った。それと同時に、思う。──今年こそは間に合ったのだと。

 あとはキャンプへ戻って加工をするだけ。それに必要な工具といえば、祖母が使っている物を借りればいいから、これ以上の出費は心配いらない。

 ぶわり、と。

 街中を風が通り抜けた。砂を巻き上げて通過していくその風は、乾期特有の乾いたそれ。もともと周囲は砂漠だから風が乾いているのは当たり前なのだが、今時期の風はそれに輪をかけてからからになっている。

 鋼介は麻袋の紐を閉じながら上に視線を向ける。

 塔。

 無骨で巨大な鉄の塔。

 ランドマークであるその塔は、今から約百年ほど前に作られた、前世期の遺物であることを、鋼介はキャンプで開かれる青空教室で知った。

 塔のてっぺんで、旗が二つ、はたたいている。

 一つは国旗。白地の布の真ん中に真っ赤な円が。

 一つは県旗。布の中心に氷の結晶のような図形が。

 つまるところ、ここは、日本国・東京都なのだった。