二、砂二埋モレタ国

 言い訳になってしまうけれど。と綾乃は続ける。

「今がこんなじゃなければ、お前さんは、こんなに辛い思いなんてしなかったんだ。たぶん、おそらく、もしかしたら、もっと違う人生を送れていたかもしれなかったんだ」

 私は。

 綾乃は言う。

「蒼衣。お前さんの人生を、滅茶苦茶にしてしまったんだ」

 蒼衣のところから綾乃の顔は見えない。背中だけ。齢四十を過ぎても若々しい後ろ姿。その背中からは、心なしか寂しげな雰囲気が漂っていた。

「……綾乃さん。明日、発つよ」

「分かっちゃいたが、急だねぇ」

「すまない。しかし、もとよりそういう約束だった。これ以上、綾乃さんたちに迷惑はかけられない」

 怪我が治ったら出ていく。

 それが、蒼衣が綾乃と交わした約束だった。

 ベッドから降りる蒼衣。デザートブーツを履いていると、テントの入り口が開き、目の前を少年が走り抜けていった。少年は走り抜けざま、

「ただいま! ばーちゃん、工具借りてもいい!?」

 綾乃の孫、鋼介である。

「使ってもいいけど、怪我するんじゃないよ」

「ありがとう!」

 どこかに出かけていたらしい。それについてとやかく言及する綾乃ではないが、しかし、心配事もあるにはある。

「あれも十二にもなれば一端の男さ。でも、あいつにも、ちゃんと言わなきゃならないよ? 蒼衣」

「…………ああ、分かっているよ」

 怪我は、ほぼ治っている。

 だが、何かが痛い。どこかが重い。右目ではないどこかが。

 四年前には、感じたこともない感覚。けれど、どこか懐かしい感覚。