03.正義の味方

 ──宝飾系貿易会社マドンナに、紛争ダイヤモンド密輸の疑い。

 ポストに投げ込まれた新聞の一面には、そんな見出しが書かれていた。

 頬に貼られたガーゼを触りながら、キースは家の中に戻りつつ一面にざっと目を通す。

 深夜にマドンナの本社で襲撃事件が発生。社長室が破壊される被害にあったが、その日の朝方に新聞社に届いた書類のコピーは、マドンナがウェルスバンクの反政府組織と取引を行った際に書かれた誓約書だった──といった内容が、こまごまとした字で書かれていた。

 実際に社長室を襲撃して破壊したのは、おそらくはキースたちを殺そうとしたマドンナ側の人間なのだが……そこまで真相に迫ったマスコミはいないのだろう。

 廊下を抜け、リビングルームに入ると、キースは部屋の中央にあるテーブルに新聞を置いた。

「ありがとう」

 椅子に座っていたローザが言って、ティーカップをソーサーに戻す。

 いつも通りに新聞をめくろうとした手が、ぴたりと止まった。一面の記事に紫紺の瞳が向けられる。そこに、マドンナと反政府組織の繋がりは書かれているものの、ウェルスバンクの内情は記事の隣に軽くまとめられているだけだった。

 内乱の発生した、海の向こうの国。たったそれだけで片づけられる人間もいるのだろうが、キースが従う女怪盗ローザはそうではない。大国と大企業の陰謀に巻き込まれた、資源を持つ小国の内乱を、「海の向こう」と言って切り捨てられる人間ではない。

 そうでなければ、超高層ビルの最上階まで行って、悪事を暴くことなど誰がするだろうか。

「……怪我は、大丈夫?」